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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1471号 判決

控訴人は、右仮処分決定中第二項の控訴人に対し本件各土地に対する被控訴人の使用を妨害してはならない旨を命ずる部分については、これを取り消すべき特別の事情があると主張しその取消を求めるので判断する。

本件仮処分の目的物件たる土地が公簿上も現況もともに畑であること、右仮処分の申請及びこれに基く仮処分決定が被控訴人において右各土地につき所有権及び耕作権を主張しその権利保全を目的としたものであることは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の一から三まで及び第三号証、原審証人日向野辰蔵、蒔田覚三郎、館野秀太郎、日向野好市、稲葉利一及び川又正一の各証言並びに原審における控訴人及び被控訴人各本人尋問の結果(右各証人の証言及び各本人の本人尋問における供述中後記採用しない部分を除く。)を総合すると、被控訴人は、古物商を営むものであり、もと本件各土地を所有していたところ、右各土地につき強制競売の申立を受けたのでこれが知らない人の手に渡ることを防止しようとして、友人でありかつ農業を営んでいて農地法上の競買適格を備えていると考えられる控訴人にその競落方を頼み、その結果控訴人が昭和三十年十二月五日右各土地を競落したこと(控訴人が競落したことは当事者間に争がない。)、そのころから控訴人は本件各土地を耕作していたが、一方、被控訴人は、控訴人の右競落に当り競落代金及び登記に要する費用を支出したので右各土地の所有権は当然自己に属するものと考え、翌昭和三十一年金策のため右各土地を処分すべくはじめ控訴人に交渉したが価格の点で折り合わず同年五月末訴外川又正一に売り渡すこととし代金の一部も受領し、控訴人も被控訴人が右土地を川又に売り渡すことを一応了承した上右川又への売買についての農地等移動承認申請書(乙第三号証)に地主として署名押印し、右売買は農地法上の移動許可を受けるべき段階にまで進んだが、その許可のないうちに同年七月ころ川又が控訴人の作付けをしていた本件各土地を掘り返して耕作をはじめたため、控訴人は右売買に反対を唱え自分の方でも耕作を続けようとしたことから控訴人と被控訴人及び川又との間に争いが生じ警察が仲にはいつて争いは一時おさまつたけれども、翌昭和三十二年三月中旬控訴人が馬鈴署の植付けをし川又もこれと前後して箒草をまいたので本件各土地についての右争いは深刻となり、ついに被控訴人において本件仮処分の申請に及び右仮処分決定がなされたこと、なお前記川又に対する土地売渡については右のように所有名義人たる控訴人が反対を唱え出したことから農地法上の許可を受けることがむずかしくなりこれについての前記移動許可申請は取り下げられたことをそれぞれ一応認定することができる。前記各証人の証言及び各本人の本人尋問における供述中右認定に抵触する部分は採用しない。

右認定の事実に本件口頭弁論の全趣旨を総合して考えるに、本件仮処分決定中の前記部分が取り消されても、控訴人は本件仮処分決定第一項により本件各土地につき譲渡、質権・抵当権・賃借権等の設定その他一切の処分を禁止されているため右各土地を処分することがむずかしく、また控訴人が農業を営んでいること及び被控訴人との間の右争いの経過から考えて、控訴人が農地法上の許可を受けて右各土地を農地以外のものに転用することはなく引き続き耕作の用に供するものであること、一方、本件仮処分決定中第二項の部分が存続しこれにより被控訴人が控訴人から妨害を受けることなく本件各土地を使用しうる地位を今後も保全されるとしても、右各土地の所有名義を有しない被控訴人としては、これを他に処分することも農地以外に転用するための農地法上の許可を受けることも容易でなく、当分は右各土地を耕作の目的に供するほかはないことが明らかである。

そうすると、本件仮処分決定中の前記第二項の部分が取り消されるため被控訴人が被る損害は、右取消の結果本件各土地を耕作の目的に供することができなくなることによる損害に帰着する。そして、前に認定したように被控訴人は古物商を営んでおり、本件各土地の面積は合計して七畝十三歩で一反にも足りないし、成立に争いのない甲第十号証によれば、最近における本件各土地の農作物年収額は合計一万五千三百四十円その小作料の年額は合計六百三十四円にすぎないことを一応認めることができるから、被控訴人が本件仮処分決定中同項の取消の結果本件各土地を耕作の目的に供しえないこととなつても、他に定職のある被控訴人が右取消のため金銭では補償しつくされないような生活上の困窮を来たすものと考えることはできない。したがつて、本件仮処分決定第二項の取消による被控訴人の損害は終局的には金銭により償われるものというべく、右部分についてはこれを取り消すべき特別の事情があるといわなければならない。

(川喜多 中田 賀集)

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